数奇屋のリフォームにおける、創意工夫
 
 

茅葺茶室


桧皮葺茶室


錏葺茶室

 

軽快酒脱な意匠を支えるには、技術的な苦心が…。

数奇屋は“草”の芸術である。
匠たちの造形感覚を通じて自由な表現が展開される。
規範的なもののもつ厳しさや硬さが拭われてしまう。草体化の仕方によっては規範的なものが全く影を没することもあるし、またその輪郭や面影をとどめることもある。
草体化は、時に抽象化であったり、単純化であったり、繊細化であったりするし、はなはだ多様であったりする。
茶人たちや棟梁は、そうした草体化の優れた感覚を磨いてきたのである。
四畳半の茶室も、よく考えてみると書院造りの草体化の進化でもある。
茶人たちや棟梁は仏教的な意匠も吸収した。たとえば火灯窓や格狭間である。
書院床にみる火灯窓は、その好例であろう。
禅宗建築特有の火灯窓は、頂部の尖った複雑な曲線の輪郭をそなえているし、頂部が丸いだけでなく、輪郭全体がちょうど茶室の火灯口のような丸味を帯びていて、いかつさを少しも感じさせない。
桂離宮の新御殿の付書院にその原形をみいだすが、丸やかで、唐様の火灯を脱して“茶のかたち”に再生され、茶人らしい造形感覚がかよっている。
茶のかたちには定形というものはないといってもよいが、自由にゆだねられている草体化にも、おのずから秩序が存在する。

数奇屋風造りの意匠は軽妙な姿。

自在な茶の意匠には、それを組み立てるための、特殊な技術的工夫が要求される。
既往の技巧では拙いような場合がしばしば起こるし、一つの意匠を生かすために、その都度適切な技巧を生みだすところに数奇屋造りの妙味がある。
そうした創意工夫を厭う棟梁や職人は、数奇屋造りには向かない。
同じ仕事をするにも、手段は人によってまちまちであることが多いのである。
それぞれ、棟梁や職人は得意な技法を案出して活かしているからである。
茶室でも座敷でも、数奇屋風造りの意匠は軽妙な姿や構成を目指す。
立ち姿が高く聳える感じにならぬよう、親しみをもって人を迎えるようなたたずまいを好む。
そこで、屋根は緩く穏やかな形態を求めると同時に、軒は深く、しかも軽やかにさし出そうとする。
このような風景は、言葉や図面であらわすことは容易だが、それを実際に造形することはなかなかむずかしいのである。
深い軒の出をささえるには、軒桁の支柱が必要であるが、それを極力減らすためには、屋根裏に軒桁を吊る桔木を入れなければならない。
ところが屋根勾配が緩いと、桔木を入れるだけの空間が屋根裏に生じなくなり、とくに技術的な工夫を要することになる。
軽快酒脱な意匠を支えるために、こうして見えないところに技術的な苦心が払われるのである。

 

 

匠の技にかける。

よき数奇屋造りを達成するには、施主と設計者と数奇屋師との、心意気が合わなくてはならない。数奇屋造りという技が円熟し、技術的にも最高潮に達したのは、明治から大正、昭和戦前にかけてである。

そのころは、ほんとうに数奇屋造りにかけての玄人らしい施主・茶人・棟梁や職人がいたのである。いわゆる数奇屋道楽にもいろいろのタイプがあり、数奇屋造りの場合の施工は、やはり茶人であり数奇者であったと思う。

しかし、とくに数奇屋道楽を好む数奇者には、茶の湯全般に見識をもつ人が多かった。
点前や道具の蒐集の域をのりこえ、茶の湯をたんなる趣味以上に、生活の支柱としているような人が多かった。

したがって、茶匠にとっても、棟梁や職人にとっても、手ごたえのある相手であった。

茶の湯だけではなく、彼らはまた建築や庭についても造詣を深めていたのである。

数奇屋造り茶室を愛した茶人たち。

とくに数奇屋造りの経験の豊かな人は、材料のことから大工仕事のことまでよく知っていて、棟梁気取りで職人へ指図をするほどの人もいた。
経験の乏しい不熱心な大工では、とうてい歯の立たない施主でもあった。
毎日槌の音を耳にしないでは淋しくていられない類の人であったのである。
なかにはわざわざ弁当をこしらえて、棟梁や職人と一緒に仕事場で暮らす人もいた。
それは数奇屋造りを楽しむ態度であると同時に、数奇屋造りを勉強しようという気構えの現われでもあった。「障子の張り方も知らないで、住宅の設計ができるのですか」と、皮肉られ、それから本格的に和風建築の歴史的研究に取り組むようになった、棟梁や職人が多く輩出した時代背景がある。
このような施主のあり方が、数奇屋造りの水準を高め、その伝統を育てる上に大いなる力のあったことを、知る必要があると思う。
数奇屋造りをする人は、茶人であり、侘びの理念を解する人が多い。
豪華な成金趣味の数奇者とは全く性格が異なっているから、財力を誇示するようなことはしない。そうした施主の教養が、精神性の深い数奇屋造りの発達に適していたのである。

数奇屋造:大正ロマンの浴室〔五右衛門風呂・船底天井〕&厠
 
 


土間:待合室



数寄屋造:大広間



数寄屋造:床の間